MAGAZINE
INTERVIEW
Live at La.mama 2018 8.2
People In The Box 波多野裕文 + ROTH BART BARON 三船雅也
text : 八木皓平 / photo : ハギワラヒカル
ROTH BART BARON が、渋谷のライヴ・ハウスLa.mama で行っているツーマン・イベントに People In The Box を迎えることが決定した。それぞれの王道をまっすぐに歩み続ける彼らが、8/2 に La.mama で交差するという、なんとも素敵なアクシデントが発生するわけだ。このイベントを祝福するために、司会進行役に La.mama 店長・河野太輔を迎え、2バンドのフロントマンである三船雅也(ROTH BART BARON)と波多野裕文(People In The Box)による対談を行った。以前から親交のある彼らの会話は、互いのバンドへの想いやバンドを続けることの意義から、音楽をリリースする際のフォーマットや音楽批評についてまで話が及び、なんともバラエティに富んだ、読みごたえのあるものになった。
河野:両バンドが La.mama に初めて出演した日を調べたのですが、ピープルさんは 2007 年の 10 月 28 日で、ロットは 2008 年の 10 月 26 日なんですよ。約 10 年前です。その時のバンドのご自身の印象や思い出はどのようなものがありますか。
三船:それって僕、オーディションですか?
河野:そう、ロットはオーディション。昼にライブをやったんですよね。ピープルさんの初出演に関しては、その当時まだ福岡在住でしたよね?
波多野:いや、すでに東京に来てますね。何かのイベントですよね。
河野:そうです。まだベースも前の方でしたね。
波多野:ああそうか。メンバーが違うんだ。最初の頃とかって、僕は焦りがすごくて。覚えてないことがすごく多くいんですよ。若いときの強迫観念に突き動かされていた時期だと思うんですけど。アドレナリンが常に出続けてるんですよ。今、当時の自分の振る舞いを思うと、落ち着けよって(笑)
三船:(笑)いい話。僕はその出演が、たぶん人生2回目くらいのライヴだったと思うんですよ。ライブハウスに出るのが初めてくらいの頃です。当時は5人くらいバンドメンバーがいて、トリプルギターで、三人で同じコードを弾くというすげえバンドやってました。
波多野:人に歴史ありだねぇ。
撮影協力:参宮橋『 LIFE Son 』
河野:お互いのバンドに対してどのような印象を持っていますか。
波多野:音楽的にもそうだし、活動のスタンスもそうだし、ちゃんと自分たちの基準というものをはっきりさせて、それを守っていこうという気概をロットに感じています。それはバンドをやるにあたって普通のことではあるけど、みんな案外実現できていないことでもあるので、すごいなと思って見てますね。
河野:三船くんはどうですか。
三船:僕が最初に観たのは、波多野くんが『月見ル君想フ』でやってたソロ、ピープルを観たのは、けっこう後になります。ピープルや波多野くんが作る音楽は、ちょっと裏庭に行くと、違う世界に行ける穴がいつの間にか広がってるという感覚がありますよね。最近は自分がレコーディング中だからか、スタジオにいると部屋から出ていないはずなのに壮大な旅を繰り広げていて、日常生活を送っているときのマインドとは全然違うんです。ピープルの音楽からは、そういうスタジオでのマジカルな時間と日常生活での時間を自由に行き来しているような感じを受けますね。
河野:そんなお二方がともにご出演された去年の After Hours のイベントが、オルタナティヴの極みと言えるような、そうそうたる面子でしたよね。

河野:そのイベントの打ち上げでも、お話したと伺っているんですが。
波多野:話したね。
三船:何の話したんでしたっけ。
波多野:覚えてない(笑)たぶんこのイベントはヤバかったよね、みたいな話を。
河野:本当にすごい面子ですよね。

波多野:でも僕はあんまりオルタナティヴだとは思えなくて。僕がこういう大きいイベントをやるとしたら、こういう面子になるだろうなくらいの感じでした。一般的にはオルタナティヴなのかもしれないですけど、僕的にはど真ん中感がすごくあって。主催のバンドの皆さん(MONO, downy, envy)もそういう意図だったと思うんですよね。だからそこに自分がいれたのが嬉しいと思ってました。
三船:出演者の皆さんは、それぞれがど真ん中だと思って生きてるじゃないですか。今はもうほとんどメジャーとかマイナーみたいな区分けには意味がないですし。音楽が最初にあって、あとからレコード会社がビジネスにしていくみたいな構造はもう難しいですから。
波多野:レコード会社が作り上げたシステムに音楽家が頼ろうとする態度というのは、ここ10年くらいまではまだすごくあったと思う。それが最近なくなってきて、いま一回更地になったみたいな印象があります。僕自身はそうなろうとしていたから、最近はそういう意味ではポジティブですね。すごくゼロ感がある。
三船:ゼロ感、いい言葉ですね。最近僕もインターネットで新しい音楽を探すときに、Bandcamp やSoundCloud で自主リリースしてる、ほとんど名の知られていないような人たちの音楽を聴いています。ちょっとの勇気とアイディアがあれば、楽しく音楽活動ができる時代。みんないろんな生き方で生きられるようになったというか。そういう話を After Hours でしたんだと思います。
河野:これは八木さんから頂いている質問です。今年になって、ストリーミング時代にアルバムというフォーマットは向かないという記事がバズったり、Kanye West 周辺が7曲入りの作品をアルバムとしてリリースしたり、音楽作品のフォーマットの在り方が様々なところで問われていますよね。両バンドともアルバムや EP といった様々な形で作品をリリースされていると思うんですが、音楽作品におけるフォーマットについてのお二人の考えを教えてください、ということです。
三船:僕らもその問題に直面しているんですよね。HIP HOP の人で意外だったのは、彼らはミックステープ・カルチャーで、ヴァイナルからサンプリングで音楽を作っていたような人たちなのに、今はデジタル形式のリリースに積極的ですよね。アウトプットの仕方がどんどん変化してる。ここ2年くらいで日本もやっと CD はもうダメだなという風潮になってきて、業界の人たちが口々にストリーミングサービスの名前を言うようになってきた。でも未だ、日本には CD を買うカルチャーがあるから、僕らは CD を作る。一方で、世界中の人々がスマートフォンを持った現在、僕らの音楽を聴いてもらえるチャンスはその便利なアプリケーションを通して使用できるウェブ・サービスの中にある。ちょっと前までは youtube でフルの PV 上げる人なんて、特に日本ではいなかったですもんね。
波多野:確かに。そういわれてみればそうだ。
三船:日本っていまだに美術館で写真撮っちゃいけないとかよくわからないですよね。だって写真撮って広めたほうが人来てくれますよね。ライブも撮っちゃいけないとかもよくわからない。ひどいライブなら撮られないほうがいいけど(笑)観てもらったほうが絶対いいじゃないですか。その場に行けない人が見られたほうがいい。これまで調べたくてもできなかったことは、スマートフォンを操れば気軽にできる。あとは Google の検索窓にどういう言葉を入れて調べるかというその豊かさでしかない。でも僕はレコードが大好きで、それが血肉になっている部分もあるし、もちろん CD やカセットも通っています。だから僕は、たくさんの選択肢の中から、奇を衒うのではなく、その音楽にふさわしいフォーマットを選んでアウトプットしていくのが良いんだと思います。

波多野:僕にとってはいろいろ選択肢が増えたことって、あまり関係ないと思うようになってきています。聴き手が音楽を聴く環境は、僕らではコントロールできない。そこで、音楽制作において我々がどこまでの責任を負うかという話になったときに、僕は「 CD を作る」というところを最終ラインにしています。配信もそれはそれでいいけど、僕はそこにあまり責任を持てないかなと思います。僕が責任を負えるのはあくまでパッケージになった CD を作ることです。だから CD がメディアとしてどうかとかそういうことよりも、僕は CD を作るのが好きという(笑)10代の時にチャリンコで中古盤屋を巡っていた時の、あのシャツが汗でへばりついている感じとか、あの CD の重みとかのわくわくを覚えているし、それを作りたい。
三船:僕らに共通しているのは、デジタルになろうが何になろうが、とにかく作るのが好きってことですね。粘土をこねたりするのと同じように、ギターをポロポロ弾いてるみたいな。モノに対して人一倍愛着があると思うんですよね。それが根底にある。
波多野:時代がどう変わっていってもかまわないけど、それに対する自分の愛着を捨てる理由なんて何もないしね。それはもう単純に CD のあの感じって僕の世代的な思い入れでしかないとは思うんですけど、それはそういうものというか。だからアルバムの文化がどうという話も、僕には関係ないかもしれない。そもそもアルバムがなくなるとか絶対にありえないんですよ。だって過去の人がそれを作ってきたわけで、それは誰にも否定できないじゃないですか。
三船:残っちゃってるしね。
波多野:だから原理的になくなるなんてことはありえない。それの素晴らしさや凄さを聴いた人たちは知ってるわけだし。僕は世の中の議論って的が外れてて、みんなが自分の好きを肯定するだけでいいんじゃないかって思います。何々の時代は終わったとかよく言うけど、それはあまり意味がないと思っていますね。それが終わるとか終わらないとかは単純に数の問題であって、気持ちの問題とは違う。例えば数が少なくなってそれが流通しなくなったとしても、それに対する愛情はある人はあるし、無い人は無いというだけの話。そういうサブスクリプション云々みたいな話ってすごく重要ではあるけど、みんな是非を問い過ぎてると思う。

河野:ところでピープルさんは今年10周年が終わったところですよね。
波多野:あれは厳密には、ファーストが出てから去年で10年という区切りなんです。
河野:現メンバーでもちょうど10年くらいでしたっけ。
波多野:そうですね、10年くらいですね。
河野:この10年間で継続してバンドをやっていらっしゃる中で、大変なこととかはありました? そのほかにも、今バンドに対して感じている印象とかはどういったものでしょうか。
三船:バンド大変ですかって話ですか?
河野:僕もライブハウスをやっていて、やっぱり簡単じゃないなと。気づいたら1年経ってる、みたいな感覚で僕もやってるんですけど。お二人はどういう感覚でバンドを続けているのかなと。
三船:楽しいですよ。バンドやってなければ出会えなかった人たちが多すぎて、他のことをやっていたら、未来はどうなっていたんだろうとか考えちゃいますね。見れたこと、できたこと、変われたこと、そういうものが圧倒的に多い。それでも、まだ見たい、まだ知りたいという欲望が尽きないんですよ。
波多野:(笑)わかるわかる。
三船:基本、バンドをやってて良かったことのほうが多くて。みんなもバンドやればいいのに。ギターを持ってバンド組めばいいのにって。
波多野:やっぱり一度はバンドをやるべきですよ。バンドをやってると、こんな非効率なことはないなと思いますよね。移動も大変だし機材もいっぱいあって大変だし。全然パーソナリティの違う人間が集まってひとつのものを作るっていうのは並大抵のことじゃないですが、ただそれを補い合って、みんなで一個の失敗を次に生かしていけるっていうことの尊さがバンドにはあります。あとは複数の人間で作るからこその予想のつかなさも面白い。なんでこうなったんだろうというものを他人と作り出せるほうが、興奮が長持ちすると思うんですよ。その、よくわからなさみたいなものは、人と一緒に作る上でのエラーの中でしか生まれないし、そのエラーの純度を高めていけるというのはやっぱりバンドならではだなぁと思います。

河野:これも八木さんからのご質問なんですけど。ロットは欧米でツアーやレコーディング、リリース等をしてますよね。波多野さんも中国や台湾でライブをしています。それぞれバンドの今後も含めて、海外での活動はどのようにお考えですか。
波多野:海外での活動という話って、考え方ってバンドやミュージシャンそれぞれイメージが違うというか。イメージする実態が違うんじゃないかなと思っていて。ロットは、僕が観ている感じだとすごく自然というか。
三船:そうですね。自然ですね。肩肘張らずに。
波多野:そういうふうに見える。
三船:思いついちゃったし、会いに行きたい人には会いに行きたいなっていうのが、このバンドの根源のエネルギーになってるところで。日本に住んでいるときの視野のままで人生を過ごすのは非常に勿体ないなと。あと、ロック・ミュージックは日本で生まれてないものだから。フランス料理を勉強したいのにフランスに行かないで日本でやるのはおかしい、みたいなものですよ。一回(本場を)知ってからやるのが好きです。
波多野:フラット化したいってことかな。自分の視野を。
三船:そうかも。そういう視点から日本を見てみたかったし、違う世界にいる自分も好きだし、そこでどうやったら僕の音楽は鳴るんだろうとか、そういうことを考えますね。音楽がなかったらそこまで興味がなかったかもしれないです。ただ観光客として行くのではなく、現地の人と一緒にいて、実際そこで暮らすというのが自分にとって大切ですね。
波多野:いいと思う。すごく腑に落ちた。
河野:波多野さんはどうですか?
波多野:僕はあんまり…海外って一個人としてはすごく好きなんですけど。
三船:波多野くんはチェコとか東ヨーロッパにふらっといそうなイメージ。
波多野:マルタ共和国には行ったことあるよ。
三船:すごい(笑)
波多野:海外での活動ってライブとリリースを外でするかどうか、みたいなのがすごく具体的な側面としてありますよね。そういうことは今のところは考えたことがないかも。変な話、日本でやってても、海外の人に見つけてもらうことはできるから、今はその段階かなという。例えば僕がマルタ共和国のバンドを聴きたいと思ったら、探せるわけじゃない? なんなら CD も無理したら手に入る。それでいいかなと思う。だからといって国内にこだわっているかというとそういうわけでもない。でも自分たちで打ち出していくには、僕らはあまりにフットワークが重いんだよね。それは自分たちでそうしたくてやってるんだけど。もっといえば、自分は飲食店をやってたら、チェーン店とか支店を出したくない人だと思うんだよね。それは閉ざしてるんじゃなくて、来て来てーって感じ。
三船:わかった、すげえ納得いった、今。
波多野:でしょ?(笑)よかった。
三船:波多野くんの考え方は面白い。いいと思う。

河野:時間もないので、八木さんから頂いた質問だけもう一つお聞きしたいんですけど。ピープルの新作『Kodomo Rengou』のリリースの時に、波多野さんは八木さんに、ライナーノーツの執筆を依頼しましたよね。八木さんはそのことを、波多野さんが自分たちの作品をきちんとした批評の場にさらされることを求めていると捉えたようです。そこで、三船さんは音楽を巡る批評についてどのように考えていますか、とのことです。
三船:日本は議論が少なすぎるのでもっとやったほうがいいと思いますね。メディアの力がなくなってきてしまったのかはわからないですけど、批評文化は年々縮小している気もするし。アメリカだったら、ブロードウェイで上映した翌日のレビューがクソだったら誰も来ないし絶賛されればみんな来るみたいな、そういう文化にはリスペクトがある。自分が音楽活動していていろいろ言われますが、日本の音楽批評ってそこまで発達してないですよね。実際の批評というものを、もしかしたら僕らは体験していないかもしれない。だから本当の批評を見てみたいですね。言っていいのかわからないですけど。
波多野:それ、すごく切実な話だよね。批評カルチャーがないのはどういうことかというと、広告と批評の差が一見わからないということなんだよ。

河野:そろそろお時間がきてしまいました。
三船:今度のライブは絶対良いものになると思います。
波多野:最後に無理やり(笑)
三船:こんなに気が合う二人のライブなんて、超特別になると思います。会った瞬間に、ああこの人とは仲良くなるなって予感があったんですよ。
波多野:わかるわかる。
三船:僕のこの予感ってだいたい当たるんですよ。いつも。10年間変わってない。だからこうやって La.mama ともイベントをさせてもらえて、波多野さんともやっとできて、ピープルのみんなとも会えるし。楽しみです。ご期待ください。
波多野:ご期待ください(笑)

People In The Box
05 年に結成した3ピース・バンド。08 年に福井健太 (Ba) が加入し、現在のメンバーで活動し始める。3ピースの限界にとらわれない、幅広く高い音楽性と、独特な歌の世界観で注目を集めている。
2018 年 1 月 24 日に 6th アルバム『Kodomo Rengou』をリリースした。
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