MAGAZINE
INTERVIEW
La.mama Presents Interview
ROTH BART BARON × Luby Sparks
text : 八木皓平 / photo : ハギワラヒカル / interview : 河野太輔(La.mama)
7/12にLa.mamaで行われるROTH BART BARONとLuby Sparkのツーマンライブは、実にユニークな組み合わせだ。USインディー・ミュージックの影響を強く受けながらオリジナリティ溢れるサウンドを作り続けるROTH BART BARONと、名門レーベル〈4AD〉に代表されるUKの耽美的なロック・ミュージックを追求するLuby Sparks。音楽性だけをざっくり見ると、対照的と言ってもいい。この対談企画の話を聞いた際にも、三船雅也(ROTH BART BARON)とNatsuki Kato(Luby Sparks)がどのような対話をするのか全く想定できなかった。だが蓋を開けてみれば、曲作りの方法論、海外レコーディング、アジア周辺の音楽文化への興味などを始めとした様々な話題を通して、互いの共通点や相違点などが見えてくる充実した対談になった。
河野「お二人が共演するのは初めてですか?」
三船「初めてです。Luby Sparksを知ったのは去年のツアー中にAlbum『Luby Sparks』のアートワークがいいよね、という話題が出た時でした。」
Natsuki「Luby Sparksを始めたのが2~3年前なんですけど、ROTH BART BARONのことは、その前から知っていましたね。」
河野「お互いのバンドの印象は?」
Natsuki「僕がタワレコにバイトで入ったのが高3くらいだったんですよ。今も続けていて、もう6年くらいになります。ずっと洋楽フロアにいるんですが、タワレコにいることで邦楽にも触れる機会が多くて、その中でROTH BART BARONの音楽は、自分でも聴ける邦楽の一つでした。ゼロ年代以降のUSインディーの感じがすごい。具体的に名前を挙げてしまうと失礼かもしれないですが、ザ・ナショナルやフリート・フォクシーズ、ファーザー・ジョン・ミスティあたりを連想しました。日本にはあんまりいないタイプのバンドだなと。」
河野「三船くんはLuby Sparksにどういう印象を持っていますか?」
三船「『Ruby Sparks』って映画があって、、、LじゃなくてRなんですけど。それが『リトル・ミス・サンシャイン』っていう映画を撮った監督の『リトル・ミス・サンシャイン』より人気がなかった作品なんですよ(笑)でもその『Ruby Sparks』って本当にいい映画で。彼らはそういうものが好きなのかな?と思ったし、パッケージもある意味日本ぽさを排除しているアートワークで、気になって聴いてみてサウンドはすごいUKだなと。それでまた懐かしい・・・さっきゼロ年代って言ってくれたけど、ゼロ年代より前の・・・なんか90年代後期のUKのフィールがタイムマシンでやってきたみたいな感覚があった。それが一周回って新鮮に感じたというか。ちょっと前までは音楽業界にUKロックという言葉があったのに、今はUKロックと言う人たちは絶滅して。こうやってタイムカプセルみたいなアルバムがリリースされて、それは自分の中で革命的でした。」
『Ruby Sparks』予告
Natsuki「僕は三船さんの髪がもっと長かった頃のロットのMVや写真を見て、外国人かと思いました(笑)でも、歌詞は思いっきり日本語だから、ヴィジュアル的に若干違和感があって。なんだろう、日本語も普通の発音でしたし、メロディも日本的な要素が強いのに、音やヴィジュアルが海外っぽいからすごく不思議でしたね。」
河野「お互いの曲作りについてお伺いします。曲が生まれるタイミングや、降ってくる時など決まっていたりしますか?」
Natsuki「僕は全然降ってくるという感じのタイプではないです。ベースから始めているので、ギターもコードが一個もわからなくて適当に作っているのですが。なんとなく気持ちいい押さえ方や、これはダメなんだというのがわかるので、そういう感覚で作っています。曲作りのタイミングも降ってくるというよりは、他人の音楽を聴いていて、あ〜この曲のこの部分、このリフ、この入り、このコードの感じ、この重ね方がいいなと思った際に、それを自分の曲作りのためのアイデアとして貯めていき、いざ作らなきゃいけないというタイミングで作るという感じですね。」
河野「Natsukiさんはベーシストですが、曲作りはギターでやるんですね。」
Natsuki「そうですね。ファーストの『Luby Sparks』は11曲入っているのですが、その時はちゃんとしたパソコンも持っていなかったので、ソフトなども使えなくて。iPhoneやiPod touchを2個使い、ボイスメモでギターバッキングを1つ弾き、それにリードギターを重ねて録った後、歌を入れメンバーに聴いてもらい、こういう感じでとニュアンスを伝える作業をしていたんです。去年の頭に『Luby Sparks』を出して、終わりに新しいEP『(I’m) Lost in Sadness』を出したのですが、そのEPからは、プロデュースしてくれたマックス・ブルームが、軽くLogicの使い方を教えてくれたので、何とかLogicを使えるようになりました。そうなってからは、どちらかといえばリズムから作るようになりましたね。」
Luby Sparks | Perfect (Official Music Video)
三船「じゃあNatsukiくんがベーシックな部分を作って、みんなにシェアしてっていう流れなんですね。」
Natsuki「そうですね。それでさっきも言った通り、コードが適当な箇所を直してもらったり、もっと倍音足して広がりのあるコードにしてもらったりなど、レコーディングの際にマックスが手直ししてくれたのが色々重なり出来上がって。」
三船「バンドのメンバーはどうやって集まったんですか?」
Natsuki「メンバーですか。3年くらい前、自分の曲をやるバンドを作りたいなと思い、早稲田のブラック・ミュージックしかやってはいけないサークルに入ってたんですよ(笑)そんな中で、僕はみんながやってるブラック・ミュージックをやるのはちょっと嫌だなと思って、ブラッド・オレンジをカバーしたり。それで、そういうのに食いついてくれた人をこの人趣味合うなと思い、話が盛り上がった際に誘ったりだとか、その人が後日連れてきてくれたギターリストを加入へ誘ったりなどですね。なんとなく嗜好が合いそうな人に集まってもらい、最初はマイブラをカバーして遊んだりして、だんだんとオリジナルをやるようになったという流れですね。」
三船「なるほどすげぇわかってきた。ブラッド・オレンジをやる感じがいい(笑)」
河野「三船くんは作曲の時はどんな感じですか?」
三船「そうですね作曲・・・いや、うーんとね、浮かんできます(笑)」
Natsuki「浮かんでくるとはどういう考え方なのですか?」
三船「街を歩いてる時のリズムと、その歩いている場所というか、空間との間に生まれる空気感・・・フロウみたいなものに自分の頭が反応して曲が生まれるというか。そういう癖が勝手に付いちゃって、それが大学生くらいの頃にパッてあったんですよ。」
Natsuki「では街歩く時は、音楽を聴かないで?」
三船「そう。高校、大学生の頃は日常の1/3の時間を電車の中で過ごしていたから、本を読んだり、ヘッドホンで音楽を聴くことがすごく好きだったんだけど、今は耳を塞がれる環境が不自然に感じていて。どちらかというと、歩いているときは人の音を聞いている方が最近楽しい。だからいつも小さいレコーダーを持ち歩いていて勝手にサンプリングしてる。これは自分の本業のプロジェクトとはちょっと違うけど(笑)写真をスナップするのと一緒で、街の音をスナップするのを最近ここ3、4年くらいマイブームで。その録音データ・・・インスピレーションを持ち帰ってスタジオで作ったりとか。」
Natsuki「暗記するということですか?」
三船「そこで消えるものはそこまでだろうって。だから自分が、このメロディいいなと思ってたら3年前にiPhoneに吹き込んであったとか、そういうのはあります。一緒じゃん!って思ったりとか。」
Natsuki「メロディがついて、吹き込むとかはありますね。でも、だいたい吹き込む手前で消えたりとか「あ・・・消えた・・・」みたいな。寝転がってる時はあるかもしれないですが、街歩いてる時はないですね(笑)」
三船「風呂に入ったり、街を歩いたり、全然かっこよくないですけど(笑)三船のシャワールームのデモ音源がたくさん(笑)ツアーとか一緒に回ったりすると「三船の風呂は長い」って文句言われるんですけど、僕にとっては大事なんですよ(笑)その他にもスタジオで楽器を触ってる時とかに偶然起きたりするし、色々ありますね。」
Natsuki「あまり曲作ろうって思い行く感じではない?」
三船「そう。なんか曲作ろうって、こういうリズム・パターンでなんかやってみよう!とかそれをやると破綻するというかあまりうまくいかなくて。自分が何かに強要されてできるタイプじゃなくて、自分のペースで自分の好きな時に好きな方法でやると効率よく曲が完成するってことがわかってるから、それをうまく引き出すために、朝どういう風に起きて何を食べたらこういう気持ちになって、こういう感覚で生きれるかみたいなのを頑張って、毎日作るっていう感じでやってます。やるぞって言わなくてもできる環境を作るようにしていますね。」
河野「曲作りの中で意識してることはありますか?」
Natsuki「最終的に自分の曲がどうなったら自分自身が満足するのかを考えた時に、20年後に聴いた際に聴けるものを作りたいというのはあります。それは自分が今、20年前の音楽を愛していたり、30年前のものを聴いていたりするからです。自分が中学、高校生だった頃に、90年代の音楽を聴いた時の衝撃みたいなものを、自分の音楽からも感じられるようにしたいです。あと、僕の曲をリアルタイムで聴いた時に、今っぽいなとかあまり感じさせないような曲にしようとは思っています。あとは、国籍があまりわからないようにはしたくて。うちのメンバーもハーフが2人いるのですが、その人たちを加入させる時からずっと考えていました。」
三船「僕も楽曲の強度については考えます。自分が10代の時に聴いていた音楽が、20代の時に聴けなくなってしまう音楽と、ずっとそこに残って自分に寄り添ってくれる音楽の違いはなんだろうというのは考えるし、自分が作る音楽は後者であってほしい。自分の心のコアなところに触れられるものの喜びをいつも自分の中で生み出せるようにしたい。演奏する時、曲を作る時、アートワークを作る時、歌入れの時も。それは大事なテーマなのかなといつも思っています。あと、国籍感を排除していきたいっていうのは、ある種今一番直面しているテーマだなと思うし、僕らは日本語で歌っているけど、別にたまたま日本で生まれて育っただけだから、それをわざわざ日本人らしいアイデンティティとか振りかざす必要もないし、そこはニュートラルかなと。」
河野「ライブについてお伺いしたいのですが、セットリストを決めるタイミングはいつですか?」
三船「いつもギリギリです。」
Natsuki「僕もギリギリです。」
河野「ライブ当日?」
三船「本当は当日がいいですけど、割と3日前とか。」
河野「メンバーと一緒に決めますか?」
Natsuki「基本自分が決めちゃいますね。」
河野「そこからメンバーに展開してという感じですか?」
Natsuki「そうですね。そして直前の練習の際に繋ぎ方などを検討したり。僕らはけっこう海外のバンドの前座をやることが多いので、そのバンドに少しでも近い選曲をするということもあります。今日一緒に共演するバンドはガレージロックっぽいので、僕らの中でも割と激しかったり、テンポが速い曲を多く組み込もうとか。逆にサーキットに出るときは、寄り添ったりというよりも浮いた方がいいかなと思って、逆に分かりづらい曲をやったり。」
河野「ROTH BART BARONも三船くんが中心で決める感じですか?」
三船「そうですね。ただイベントによっても変わるかな。あとはいろんな街でツアーをしていて、去年のセットリストなどを参考にして、この街の人たちはこの曲をしばらく聴いていないからとかは考えます。いわゆるライブの時は、本番直前に変えたりしますね。今日のお客さんの雰囲気、全然こういう感じじゃないなという時とか(笑)」
Natsuki「いざステージへ上がった時や、リハというかサウンドチェックの際に、あ~これ違うわってこともありますね。この曲はやっぱりやらない、とか「追加で」など。」
河野「そっちの方が自然な気はしますね。」
三船「最近はライブ・ハウス・イベント以外にも作り込んだショーを見せる機会も増えて、ライブ・ミュージックをするのか自分の中で分かれてきていて。作り込んだ世界と、衝動的で瞬発的なライブ・ミュージックの違いが肉体でわかるようになってきました。楽しいですね。」
Natsuki「曲がいっぱいあるからでしょうか?」
三船「そうですね。前はそういうことできなかったんですよ。」
Natsuki「僕らはまだ15曲ぐらいしかないので。」
三船「でも15曲、割と大丈夫じゃない?」
Natsuki「そうですね。ただ、もうやらない曲というのが出てきてしまいますね。気分じゃないなというか。今の雰囲気に合わないなと思う曲があって、やらなくなっていくことがありますね。」
河野「ROTH BART BARONは、新曲は出来たらすぐライブでやっちゃう感じですよね。(笑)」
三船「そうですね。音源になっていないのもありますね。(笑)どんどん新しいことにトライしたいタイプです。リハで出来た新曲をその場でやりたいくらいの気持ちがあります。」
河野「ROTH BART BARONは9月にプラネタリウムでのライブを控えておりますが、ライブする場所の特徴を意識してセットリストやアレンジの内容を変えたりしますか?」
https://www.rothbartbaron.com/planetarium
三船「このプラネタリウムのライブは、僕らがFacebookでやっている”PALACE”という非公開のオンライン・コミュニティがあって、そこのLIVEプロデュースチームと一緒にセットリストを決めることになっています。ライブする場所の特徴、、、最近いろんな編成で演奏する機会が増えているんですが、そういう中でいかにして枠を超えていくかみたいなところがROTH BART BARONの目指すところというか。会場を作り込んで、それを丁寧に積み上げていくのは楽しいし、僕らもお客さんも聴いたことがないものを作るのは、僕らもお客さんもドキドキするだろうっていう。」
Natsuki「サポートを足したりとか、ホーンを足したりなど、固定メンバーが2人だけだからこそ出来る色んな広がりがあるのはいいですね。僕らは5人だから、5人の中でどうやって新しいことをやるかって考えていて。そこはいつも課題ではありますね。」
河野「Luby Sparksは、ライブ・ハウスとかレコード・ショップ以外でライブしたことはありますか?」
Natsuki「まだあまりないですね。野外とかでも一回くらいしかないです。去年は大学の文化祭に呼んでいただいて外で演奏しました。本番から2,3曲目くらいですごい大雨になってしまい、僕らの演奏が終わったくらいでぴったりと止んだのですが(笑)雨でびちゃびちゃになってしまいましたが、めちゃくちゃ気持ちよくて、自分たちも意外とこういう天気に合うなと思い、そういうものも体験できて良かったですね。ROTH BART BARONがプラネタリウムでやるというのは、すごく羨ましいです。」
河野「ROTH BART BARONは印象に残っている会場はありますか?」
三船「フジロックで電源が全部落ちたっていうのはすごい衝撃でしたね。ステージの中音だけになったという(笑)」
Natsuki「やばいっすね(笑)」
河野「本番で?」
三船「本番です。本番中に全部”ボン”って落ちて。ライブ中、何度も電源を入れ直すけど、それでもまた落ちる、という。」
河野「Luby Sparksは印象に残っている会場はありますか?」
Natsuki「イギリスへレコーディングしに行った時に向こうのフェスに出まして、外国人というかイギリス人のノリの良さに圧倒されました。こんなジャンルだけどそのテンションで大丈夫!?みたいな。こっちが追いつけないという(笑)逆にお客さんに盛り上げてもらえる、ああいう感覚はそこで初めて体験しました。とても印象に残っていますね。」
三船「イギリスの何というフェスだったんですか?」
Natsuki「『Indietracks』(https://www.indietracks.co.uk/)というインディー・ポップに特化したフェスで、ラインナップが渋いんですよ(笑)ヴァセリンズとかそういうバンドが出演する。ぼくらが出た時にはザ・ウェディング・プレゼントとか、フランキー・コスモスなどが出演していて。」
河野「心の情景としてロンドンがある?」
Natsuki「ありますね。自分の好きな音楽が圧倒的にイギリスが多いおかげで、ずっとイギリスで録音したいと思っていました。ファーストは絶対ロンドンで録りたいと思っていたから実現できたというのもあったし。いざ行ったら、自分が期待していた通りのロンドンだったんですよ。あんまり裏切られる点が無くて。」
河野「La mamaのステージや会場はどう感じますか?」
三船「難しいですね。メンバーの配置が。」
河野「編成はちょこちょこ変わるんだよね?」
三船「そうですね。今回のLa mamaは4人でやろうと思います。配置どうしようかなぁ。」
Natsuki「普通に業務的な話ですね(笑)」
三船「ただ、La mamaはいい意味で慣れる事がないっていう感じがします。」
河野「やる度にに響きとかの感じも違う?」
三船「うん、違う。それは地味に機材を変えているせいなのかわからないですけど。だから、あのライブ・ハウスは面白い生き物みたいだなっていう(笑)」
河野「Natsukiさんはどうですか?」
Natsuki「そうですね。やっぱり花道ですかね。え、花道があるんですか!?って(笑)」
三船「確かに(笑)でも、扉開けるとちょっとロンドンっぽい感じしない?」
Natsuki「ありますね。あまり日本っぽくない箱ですよね。歴史が長いせいもあるのかもしれないですけど。あと、ステージに立ってお客さんの顔が自分の顔よりも上にあるというのは、僕らみたいなタイプは恥ずかしくなっちゃいますね。」
河野「二人はどういったシチュエーション、どんなメディア(CD、サブスク)で音楽を聴く事が多いですか?」
三船「Natsukiくんはタワレコで働いてるのに(笑)これいい質問だな(笑)」
Natsuki「僕はSpotifyとApple Music両方使っていますね。最初の頃は、僕もタワレコで働いているからCDというメディアを大切にしたいと思っていて、サブスクに対して微妙な距離感を感じていました。でも今は考え方は変わっていて。よく言われるCDのめんどくさい点として、一回パソコンへインポートしなきゃいけないじゃないですか。僕はあの時間が好きだったんですよね。TSUTAYAとかでいっぱい借りて、それをインポートしてという一連の作業が好きだったし、友達とシェアするのもUSBにいっぱい入れたり、どさっとCD貸したりとか散々やってきて。でも、考えてみたらSpotifyもそれと似たようなことができるじゃないですか。プレイリストを作って共有したり、このアルバム良かったよってポンとリンクを貼ったり。そう思うとサブスクに対する抵抗感が無くなり、むしろこれを機会にどんどん周りに勧めるようになりました。」
三船「うちのバンドのハードコアな人・・・岡田拓郎くんっていうんですけど、彼を取り巻く一部の人たちは、逆に今CDが熱いってことになってて(笑)レコードより安くて、音もカセットより良くて、そしてHARD OFFで死ぬほど安く売ってるという。みんな今CD売ってるので、すごく漁れるんですよ。」
Natsuki「僕はCDがやっぱり好きで。圧倒的にレコードよりもCDを持っているし、サイズ感もすごく好きだし。プラとか紙ジャケとかデジパックとか、ジャケットの多種多様な感じはすごく楽しめます。」
三船「サブスクもいいけど、SoundCloudやBandcampだと更に深く楽しく掘れますよ。SoundCloudだと、弾き語りの子が初めて作ったような曲がたくさん上がっているから、新しい音源を探すのがすごく楽しい。今、レコードやCDをプレスすることができないインディー・ミュージシャンたちが、デジタルでアップロードすることで自分の表現をアウトプットしている。ある意味では一時期のブロガーに近いですよね。新しい人たちがいっぱいいて、どうでもいいものもいっぱいあって、これから何が起こるかわからないというのは楽しいですよね。」
河野「ROTH BART BARONは『dying for』をブラッドリー・スぺンス(Jamiroquai、Kasabian、alt-J等)、Luby Sparksはこれまでにも話に出てきたマックス・ブルームと、ロンドンでアルバムを製作していると思いますが、お二人の経験を通じて日本とロンドンのレコーディングや音楽を取り巻く状況の違いをお伺いしたいなと。」
三船「どこで録ったんですか?」
Natsuki「僕らはファーストをロンドンで録ったんですけど、ヤックの来日公演をサポートした時に彼らと仲良くなって、その際にアルバムを出すのならプロデュースしてあげようかという流れになって。ヤックは今アルバムを3枚出しているのですが、ファーストとサードを録ったのはマックス・ブルームの実家なんですよ。彼が強引に作ったホームスタジオであれば使っていいと言われたので、そこを使わせてもらいました。ドラムだけロンドンの普通のリハスタみたいなところでルームマイクをいっぱい立てて録り、あとは全部彼の実家で録りました。」
三船「ロンドンのどこらへん?」
Natsuki「カムデンから、8駅くらいの地域の良い住宅街ですね。」
三船「僕らがレコーディングした場所は、ロンドンのど真ん中のソーホーにあるスタジオと、ライムハウスっていう色んなアーティストがシェアしているビルの2か所です。後者はドーターとかがファーストをレコーディングした場所なんですよ。ミックスルームと、ちゃんとしたプロフェッショナルのスタジオがあって。そこでレコーディングをした後、ソーホーでミックスをしました。ライムハウスの手作り感は、日本のリハスタのかっちりした感じよりいい意味でラフで、日常の延長に音楽があるようなところがあります。それはロンドンという街にも言えて、歩けばいっぱい音が溢れているし、ジャズバーから音が漏れてくるし。日本の「騒音がうるさいんですけど」という感じではなく、週末はうるさいもんだっていう中でみんな生きてる感じがある。やっぱり日本人はある種、音楽と生活を切り離しに来てるんだなというのは感じますね。あと日本との違いで言えば、電圧が240Vなんですよ。イギリスのバンドの音がストレートで、ギターの音にパンチがある理由はこれか!っていうことに気付けたのは大きいです。」
河野「昨今アジアのインディーバンドの交流が盛んになっていますよね。ROTH BART BARONはアジアツアーをしているし、Luby Sparksも韓国のSay Sue Meを呼んでイベントをしています。最近のアジアシーンについて感じていることや、気になっているアジアのバンドがいたら教えていただけますか?」
Natsuki「僕は焦ってますね。世界が見てるアジアシーンの中に、日本は入っていないんですよ。それが本当にやばいなと思っていて。僕たちが韓国のバンドを呼んだりというのも、そこに食い込みたくてやっているんですけど。」
三船「アジアの中で日本が浮いているのは、日本国内だけで音楽ビジネスが回ってしまっているのが一つの要因だと思います。それは日本の音楽業界の先人たちが作ってきたもので、日本の音楽家にとって生きやすい、ありがたい環境とも言えるのだけど、そういう状況はクリエイティブにとって良かったのかと言うとクエスチョンが大きくて。日本が浮いていることにLuby Sparksが自覚的になっているのはすごく大事なことだと思う。僕たちが今、アジアで何を鳴らせるのかっていうのは、今、日本のアーティストたちが直面していることだと思います。日本はすごいんだという幻想はもう完全に終わっていて、日本はこの程度ですよっていう話で、それは現実としてある。でも卑屈になってもしょうがなくて、改めてアジアの音楽シーンを見て危機感を持つのはすごく健康的なことだと思う。」
Natsuki「日本のバンドで世界へ活躍していくバンドは、外国人から見てわかりやすい日本感の強いバンドが昔から多いなと。それに対して今アジアから出てきていて色んなところへ行っているバンドは、別に韓国っぽい台湾っぽい香港っぽいみたいなものはほとんどないし、そういうフィルターもかかっていないから、そこはすごく羨ましいですね。」
河野「その中で気になってるバンドはいますか?」
Natsuki「前にSobsっていうシンガポールのバンドが来日し、その時に彼らから「Luby Sparksがめっちゃ好きだから共演したい」っていうオファーをいただいたんですけど、出れなかったことがあったんです。今度SobsのメンバーがやってるCosmic Childというバンドと、香港のThudというバンドの来日公演に出ることになったのですが、それもその二組が共演したいと言ってくれて。そのオファーを聞いたとき、向こうの人たちは日本のバンドをチェックしているんだなと思って。いざ彼らの音源を聴いたら、悔しくなるくらい完成度が高いし、音もいいし、Spotifyへ飛ぶと今月のリスナーがいっぱいいるし(笑)彼らの音楽を聴いている人たちは、Snail Mailとかを聴いていたりするから、欧米のバンドと同列のものとして聴かれているのがわかる。それでCosmic Childのメンバーに聞いてみると、僕らもサブスクで自然とLuby Sparksにたどり着いたよって言っていて。サブスクだからこそ広がる部分、チャンスがいっぱいあるんだなと。あとSobsのサウンドは、アメリカで擦り切れるほどやられていたようなインディー・ロックなんですけど、それを彼らは純粋な気持ちでやっていて。これ今やったら古いかな?みたいなことを考えていない感じがします。」
Sobs – Astronomy (Official Video)
Cosmic Child – Blue / Green (Live Session)
三船「日本と違う文脈でくるのが新鮮だよね。」
Natsuki「逆にそれが普通に向こうの人たちにもウケているというのが、ストレートな感じがして面白い。僕なんかはやっぱり考えすぎちゃうんですよね。」
河野「長くなってしまいましたが、最後に今回のイベントに向けて、一言ずついただけますか?」
Natsuki「ROTH BART BARONのファンの方々には、ジャンルで言えば全く別な場所にいる僕らLuby Sparksの音楽を、その違いを含めて楽しんでほしいです。初めて僕らみたいな音楽を聴く人もいるかもしれないし、久々にこういう音を聴く人もいるかもしれないけど、それぞれの方法で聴いてほしいです。」
三船「会場に来るお客さんたちには、Amazonプライムで『Ruby Sparks』を観てもらってですね(笑)僕はあの映画の空気感が好きで、それを通してLuby Sparksとの繋がりを感じました。だからその空気感を予習すると、みんなで楽しめるライブになると思います。二つのバンドの違いはたくさんあるけれど、繋がっているところにすごく興味があります。この二つの対バンだからこそ辿り着ける面白い景色にしたいと思います。」
『Ruby Sparks』 (字幕版)
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